本研究は酸化物薄膜のバルクにはない構造制御性を利用し、酸化物ヘテロ構造中における異常ホール効果の起源を解明することである。本年度は、電子ドープチタン酸ストロンチウム単結晶基板上に様々な酸化物をパルスレーザー堆積法で成膜し、界面での伝導特性を評価した。特にホール抵抗に注目し界面での電子の磁気的散乱に注目した。ドープ方法はキャリア濃度の変化が容易な、紫外線照射による光照射を用いた。 結果として、マンガン酸化物を堆積させたとき、特に大きな異常ホール項を観測した。また、光キャリアドープしたチタン酸ストロンチウム単結晶のみを測定すると、マンガン酸化物を堆積させたときと異なる異常ホール効果の発現を確認した。以上から、チタン酸ストロンチウムのみでも異常ホール項は存在し、酸化物薄膜を堆積させることで、酸化物薄膜の磁気散乱が重なり合わされることがわかった。 次に、チタン酸ストロンチウム単結晶における異常ホール効果の特性を調べた。キャリア濃度と移動度の温度依存性、光強度依存性から、チタン酸ストロンチウムの異常ホール効果は、低磁場領域で正確なキャリア濃度を与え、従来の磁気的な起源の異常ホール効果とは異なることがわかった。殊に、多バンドモデルなど他の磁場に対する非線形ホール効果を与える理論を用いても解析されなかった。このことは非常に特徴的であり、光キャリアドープされたチタン酸ストロンチウムに特有な性質が関連していると推測される。異常項が移動度の高いとき高磁場のみであらわれるので、ランダウ順位の分裂と深く関連していると考えられる。 以上の結果は、半導体のみで考えられてきたランダウ順位の分裂が、酸化物中の輸送特性にも顕著に現れる可能性を示す非常に稀な場合であると考えられる。
|