本研究では、フランコフォニー運動の理念を明らかにすると共に、これと矛盾を見せるフランス共和主義とその多文化主義政策の在り方を指摘した。その事例には、フランス国内の地域語、少数言語に対する施策と、移民問題という広範に渡る問題を取り上げたが、フランコフォニーを対外政策の一環として位置付け、多文化主義を掲げるフランスは、国内の文化的多様性には一定の理解を示しながらも、それを公式に承認することを拒絶している。 さらにオブザーバー国を含め68メンバーをも抱えるフランコフォニー国際組織の実態はよく知られていないが、その設立過程から近年の活動までを緻密に追って、これを体系的に提示した。そのなかで明らかにされるのは、独立を果たした旧フランス領アフリカ諸国から、組織設立の足がけとなる連合の話を持ちかけられた当初、フランスは長らく「新植民地主義」であると批判されるのを危惧し、これに積極的には関与しなかったが、これを歓迎しなかったわけではなく、アフリカ諸国の主導性に任せつつ影ながら支援していたことである。 転じて、フランコフォニーメンバーの中でも最大の出資国としてフランスが関与するようになったことは、フランコフォニーを新植民地主義の体現であり、旧植民地諸国への影響力の維持を図るものといった批判を絶えず招いているが、伝統的に二国間関係を多国間関係より重視してきたフランス政府の姿勢は、そのフランコフォニー戦略にも現れ、多文化主義を称揚するフランコフォニーとの食い違いが露呈された。 総じて、フランスは多文化主義を謳い、フランコフォニーを支持するのであれば、同時に国内政策と対外政策の間に見られる矛盾を解消して、その姿勢に信憑性を持たせる必要性が立証される。
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