アインシュタインの一般相対性理論が予言する最も興味深い天体としてブラックホールが挙げられる。ブラックホールは重い星の最期に形成され、光さえも逃げられないような非常に重力の強い天体である。重力は非常に相互作用が弱いので、ブラックホールは重力理論の検証という観点からも重要な位置を占めている。このような天体物理学的な興味に加え、近年では超弦理論などの素粒子統一理論に示唆されて、より高次元時空中のブラックホールが重要な研究対象となっている。例えば我々の世界を高次元中の膜として捉えるブレーンワールドでは、地上の加速器内で実際のブラックホール形成が予言されており、ブラックホールの直接観測、高エネルギー物理学そして素粒子統一理論に於いてその重要性は計り知れないものがある。 私の研究目的は、このような素粒子統一理論に示唆されたブラックホール解の解析にある。まず始めに、ブレーンの効果を加味したブラックホールからの輻射について調べた。その結果ブレーンの自己重力が輻射率を下げるという結果を得た。この傾向はブラックホール蒸発を加速器内で実際に検証する際に重要なポイントとなるであろう。 また弦の場の理論的補正を加味した理論に於いて、空間的対称性を仮定し、動的なブラックホールについてた解析を行った。時空の局所的性質を特徴づける質量関数及び動的地平線の性質は時空のエネルギー条件のみで決定され、低エネルギー極限を持たない解の分岐では重力の収束性を破るという著しい結的を得た。これは曲率高次項を加えた理論では一般に予言されないことであり、我々の研究はこれまで不可解だと考えられていた解の分岐の性質を一般的条件の下で示した初めての論文である。これは宇宙のダークエネルギー問題についても一石を投じる結果になるであろう。
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