研究概要 |
近年、生命情報学の発展により生化学反応ネットワークの構造が明らかにされつつある。種々の生命現象はこのネットワークの結果として起こっており、生化学反応ネットワークの構造や形成機構を明らかにすることは生命現象を理解する上で重要であると考えられる。本研究の目的は、生化学反応ネットワークを統計力学的な視点から解析を行い、それを基に数理モデルを通してネットワークの形成機構を解明することである。本年度は、まずネットワークに埋め込まれた構成単位を議論した。そのためにn-クリークネットワークを提案し、その次数分布を解析的・数値的に調査した。結果として、以前提案した仮説:構成単位レベルでの優先接続[Phys.Rev.E72,046116(2005)]の妥当性を示すことが出来た。次に、種々の生化学反応ネットワークにみられる次数相関(ある点が持つ枝の数とその近傍点が持つ枝の数の相関)の不均一性について議論した。この不均一な次数相関の起源については不明であった。そこで、生体分子の進化的な適応度を考慮した優先接続を提案し、この不均一な次数相関が出現することを示した。最後に、原核生物における代謝ネットワークの構造と生育温度の関係について議論した。元来、ネットワークは環境に応じて変化すると信じられてきたがその詳細は不明なままであった。そこで、グラフ理論的な測定量を用いて、代謝ネットワークの構造特性と生育温度の相関を議論した。結果として、代謝ネットワークの構造は生育温度によって異なることを見出した。具体的には、温度の増加とともにネットワークは疎になること、そして、モジュール性が減少し、結合性が均一化することを見出した。これらの結果は、今後、生化学反応ネットワークの進化や耐熱性の起源を理解する上で有効な知見になると考えられる。
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