私の研究実施計画に記載した通り、一年目の今年は、グラファイト、白金、あるいは銅を用いたシステムにより、今後の研究に必要な計算道具の開発と検証を行いました。これらのシステムは研究課題にもあるバイオナノ構造体とは異なりますが、計算手法の検証を実験結果と照らし合わせるには最適であると同時に、私の研究目的でもある触媒や燃料電池関連技術に関する機能材料のデザインという点においても関連性の高いシステムであります。この計算手法を用いて、電子状態計算から得られた炭素表面上のナノ構造体の可観測性と区別可能性を明らかにし、この計算結果が走査トンネル顕微鏡や表面に吸着した重水素の熱的脱離の測定といった実験結果と非常に良い一致を示すことを確認しました。更に、より計算需要の高い表面に粒子が吸着した構造である、白金触媒表面上の水素と一酸化炭素の相互作用に関する研究も私が並行して行っているテーマでありますが、この計算手法により、触媒被毒が起こる過程をより詳細に可視化することができ、また、実験結果から得られた吸着複合体の構造や被毒範囲についての理論的解析が可能となりました。 最後に、上述の物理的分析の為の計算道具の開発とは別に、表面とその表面に吸着した物質の相互作用により生じる表面欠陥に関する研究を行う為の、量子ダイナミクス計算手法の開発も行いました。この手法を用いた銅とハロゲンの反応過程での量子効果に関する結果と、実験観測が一致することを確かめました。そして、現在バイオ構造体を用いた研究も進行中であります。
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