シロイヌナズナのFWA遺伝子は、野生型では胚乳特異的にインプリンティングされた発現を示す。また、シロイヌナズナの低メチル化変異体では、FWA遺伝子の異所的な発現が見られ、開花遅延を引き起こす。前年度、FWAのプロモーター領域に見られるSINE配列は、近縁種間で保存されているが、その重複構造は種間で異なることを明らかとした。また、この外来遺伝子SINEの挿入を引き金に、FWA遺伝子がインプリンティング機構を獲得した可能性を示唆した。 本研究では、同一種内において、栄養組織におけるFWAの発現レベルが異なることを明らかとした。Arabidopsis halleri ssp.gemmiferaのある系統では、系統間でFWAのSINE近傍配列が全く同じであるにもかかわらず、DNAのメチル化レベルやFWAの発現レベルに差が見られた。このことから、FWAのエピジェネティックな発現制御が何らかの環境変化等の刺激によって変化する可能性が示唆された。この可能性を示唆する結果として、シロイヌナズナと近縁種との種間雑種において、幾つかのアリルにおいて、FWAの発現レベルが上昇することを見いだした。このFWAの発現上昇は、プロモーター領域において、DNAのメチル化程度が低いもしくは、重複構造を持だないアリルで見られる傾向にあり、元々のFWA遺伝子のプロモーター領域のDNAのメチル化レベルに依存している可能性が考えられた。以上から、FWAの発現がメタステイブルな制御を受けている可能性が示唆された。
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