シロイヌナズナのFWA遺伝子は、野生型では胚乳特異的にインプリンティングされた発現を示す。また、シロイヌナズナの低メチル化変異体では、FWA遺伝子の異所的な発現が見られ、開花遅延を引き起こす。 前年度までの研究により、シロイヌナズナの近縁種では、転写開始点上流のDNAのメチル化レベルが、FWA遺伝子の発現制御に関わっている可能性が示唆された。そこで、2本鎖RNAを発現するヘアピンコンストラクトを用いて、人工的にDNAのメチル化を導入することで、この可能性について検証した。A.lyrataでは、転写開始点上流領域のDNAのメチル化がFWAのサイレンシングに重要な働きをしていることが分かった。一方、シロイヌナズナでは、転写開始点の上流及び下流領域のDNAのメチル化が、FWAのサイレンシングに関与していることを示した。以上の結果から、シロイヌナズナ特異的な重複構造の形成によって、制御領域が広がった可能性が考えられた。今までの研究より、シロイヌナズナのFWAのサイレンシングは他の近縁種よりも安定している可能性が示唆されており(Fujimoto et al.2008)、シロイヌナズナ特異的な制御領域の広がりが、シロイヌナズナのFWAのサイレンシングの安定性をもたらしているものと考えた。A.lyrataのFWAの過剰発現形質転換体では、開花遅延が見られなかった。この結果から、A.lyrataのFWAは、シロイヌナズナとは異なり、開花に影響を与えないことが明らかとなった。以上の結果より、シロイヌナズナにおいては、FWAのサイレンシング解除による開花遅延を抑制する為に、より安定的なサイレンシング機構をもたらす、転写開始点付近の重複構造が選抜された可能性が考えられた。
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