脳虚血などにより生ずる神経障害疾患の予防、改善治療を目的とした新薬・新規医療機器の開発を行うため、神経細胞やグリア細胞の情報伝達機構に関して研究を行っている。特にグリア細胞は虚血後に脳内環境を整える主要な細胞であり、虚血再灌流障害におけるグリア細胞の役割を解明することで、複雑な発症治癒メカニズムである脳虚血性疾患の治療に役立つと考えている。昨年度はグリア細胞に非致的な虚血模擬処置(sublethal oxygen-glucose deprivation;sOGD)を施して再灌流1日後に再び致死的なOGD処置を行うと、グリア細胞死が抑制されて虚血耐性効果を惹起することがわかった。また、sOGD処置後にはグリア細胞間の情報伝達機構(Ca^<2+>波)が亢進しており、特に細胞外伝搬経路が活性化されていることがわかった。本年度の研究成果は、1)sOGD処置直後と再灌流初期における細胞外ATP濃度が上昇していた、2)sOGD処置再灌流初期でのみ、ATP感受性プリン(P2Y)受容体の発現量が増加することでATP-P2Yシグナル伝達経路が活発化しており、ストレス応答性シグナルであるERK1/2が活性化されていた、3)sOGD処置再灌流後期(1日後)ではERK1/2の活性化に由来する転写調節因子c-Fosの発現量が増加していた。したがって、sOGD処置直後からATP-P2Yシグナル伝達経路が活性化した結果、再灌流後期では続けて起こる致死的なOGD処置に対する防御機構が亢進している可能性が示唆された。次年度は、これらの虚血耐性効果メカニズムを増強させるシグナル伝達経路の解明、またそれらのメカニズムが低出力超音波刺激などの物理刺激により活性化されないかを調査する予定である。
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