本研究では当該年度において、まず金属内包フラーレンM2@C80(M=La&Ce)の大量合成およびその単離を行なった。大量合成にはアーク放電装置を用い、La含有もしくはCe含有カーボンロッドを陽極としてアーク放電を行なうことにより合成した。単離は多段階のHPLC分取により達成した。M=Ceについては、後に詳細なNMR常磁性シフトの観測を達成するために、13CグラファイトとCeNi2合金の粉末を混ぜて詰めたカーボンロッドを作成し、アーク放電することによって13CがエンリッチされたCe2@C80の合成、単離についても行なった。次に、得られたM2@C80に対して高収率、位置選択的な化学修飾法の開発を行なった。具体的にはアダマンタンジアジリンを用い、光照射により生じるカルベンの付加反応が高収率かつ位置選択的に進行することを見出した。アダマンチリデンカルベンとM2@C80との1:1付加体(M2@C80(Ad))をHPLCにより単離することに成功し、吸収スペクトル測定、電気化学測定により、M2@C80(Ad)がM2@C80と非常に類似した電子構造を有していることを明らかにした。さらにLa2@C80(Ad)については単結晶X線構造解析、Ce2@C80(Ad)についてはNMR常磁性シフト解析に成功し、結晶中、および溶液中において、付加位置を北極と見なしたときに内包金属原子が南北面に配向していることが明らかになった。とくに金属原子間距離が大きく伸長していることを見出し、理論計算との比較などから、金属原子間距離が内包金属原子の配向を決める支配的な要因であることを見出した。本研究はフラーレンに内包された金属原子の動的挙動が化学修飾によってどのように制御されるのかを解明し、動的挙動を自在に制御できることを示しており、フラーレン化学の分野において非常に重要な成果である。
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