研究概要 |
2004年インド洋大津波によりインド洋沿岸のインドやスリランカなどで陸上構造物の周囲に大規模な洗掘が生じた事例が報告されている.しかし,陸上構造物を対象に準備による洗掘を検討した研究例はなく,また砂地盤内部の応力状態が洗掘に及ぼす影響を取り扱った事例は極めて限られている.本研究では,インド洋大津波での現地観測で確認され先ものと類似する陸上構造物を初めて取り扱い,陸上遡上津波による構造物周辺の洗掘の発生機構を,特に砂地盤の内部に生じる応力変動の観点から水理模型実験と数値計算により考究した. 水理模型実験により,構造物沖側隅角部に生じる洗掘穴の勾配が安息角を一時的に上回り,さらに流速減少後にその急勾配を有する砂粒子が洗掘穴の下部へ落ち込むごとから,相対越波高が大きい条件では構造物沖側隅角部に生じる最大最終洗掘深が洗掘過程の途中で生じる最大洗掘深を下回る現象が確認できた.このことから,海岸構造物の設計に際して最大最終洗掘深により局所洗掘を評価することの危険性を明らかにできた.また,構造物沖側隅角部の最大最終洗掘深は相対越波高および構造物の相対根入れ深さの増加とともに増大するが,上述したように津波作用後に洗掘穴内部に砂が落ち込むことから,その増加割合は相対越波高の増加とともに徐々に小さくなる傾向が確認できた.数値シミュレーションでは,砂地盤表面付近の有効応力の低下に伴い砂粒子間の拘束力が減少し,その状態の砂地盤に接線方向の流速が作用したことで,構造物沖側隅角部の局所洗掘,特にその初期状態の洗掘が生じたことを明らかにした.その一方で,構造物の岸側隅角部では比較的大きな流速変動が生じていたが,有効応力の増加のために洗掘が生じなかったと考えられる.以上より,埋立海浜上の流速変動に加えて砂地盤内部の有効応力変動も用いることで陸上溯上津波による局所洗堀を適切に評価できることを明らかにした.
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