ポリマーを認識し、特異的に結合するペプチド分子の創製を目指し、立体規則性が制御されたイソタクチックポリ(メタクリル酸メチル)(it-PMMA)を標的としたスクリーニングの結果得られたペプチドとポリマー間相互作用を動力学・熱力学的に解析した。ターゲットであるit-PMMA、リファレンスとして用いたシンジオタクチック(st)PMMAはスピンコート法によってフィルム化し、合成ペプチドとの相互作用を表面プラズモン共鳴を用いてリアルタイム観察した。得られた結合曲線をフィッティングすることでペプチドのit-あるいはst-PMMAに対する結合および解離速度定数ならびに結合定数を決定した。ペプチドは、その配列によってはit-PMMAに対して10^5オーダーの結合定数を示したのに対し、st-PMMAに対しては10^3オーダーの結合定数を示した。すなわち、立体規則性の違いを識別して2オーダーの結合定数の違いを有することが明らかとなった。また、その特異性や速度定数はペプチドのアミノ酸配列によって異なり、ペプチドを構成するアミノ酸の構造によって特異性が誘起されていることを明らかにした。速度定数を比較することで、ペプチド配列によってit-PMMAの結合サイトが異なっている可能性を見出した。欠失解析の結果、7残基のうち4残基が結合および特異性に重要であることを見出した。さらに、測定温度を変化させて測定し熱力学的に解析した結果、it-PMMAに対してはペプチドがコンホメーションを変化させながら誘導適合して結合して特異性を獲得していることが明らかとなった。また、立体規則性の異なるst-PMMAを標的としたスクリーニングにより得られたペプチドも同様に測定した結果、it-PMMAと比較するとst-PMMAに対して50倍大きな結合定数を示すことが明らかとなった。以上の結果から、合成ペプチドのみであってもポリマーの立体規則性という極めてわずかな違いを認識し得ることを見出した。
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