本研究は、ドイツの思想家ヴァルター・ベンヤミンの思想におけるカント哲学の意義を明らかにしようとするものである。本年度は、三年間の採択期間の二年目にあたる。 昨年度に続いて本年度も、上記課題を達成するための準備作業に取り組んだ。具体的には(一)カントの著作の立ち入った続解の続続、(二)カント・コーヘン・ベンヤミンに引き続がれている術語法の伝続の調査として要約される。後者(二)については、特にプラトン・アリストテレスの著作の立ち入った続解の開始・継続として要約される。彼らの術語法がキケロ以降の著作物における翻訳・伝承を経て、どのようにカント・コーヘン・ベンヤミンのテクストにいたるのか、その概観を得ようとした。この作業は現在も精力的に継続中である。後者(二)の作業は、もちろん前者(一)の作業と連動して行なわれた。昨年度の口頭発表で取り祖んだカント『判断力批判』の読解が、今年度には特にアリストテレス続解と結びつき始めた。具体的には、カントにおける判断力の概念を、歴史の概念ともども、アリストテレスの弁論術の術語法・思考法の枠組みのなかで再考しつつある。この作業も現在なお継続中である。 プラトンとカントとについての調査・研究から生まれたひとまずの成果として、口頭発表「思弁の場所:快原理の彼岸・神話・夢」(第二回フロイト思想研究会大会、於・京都大学大学院人間・環境学研究科、二〇〇八年九月二八日)を行なった。この研究発表では、フロイト「快原理の彼岸」の重要な操作概念である時間・デモーニッシュなもの・神話・ファンタジーといった言葉が、フロイト自身の自負とはおそらく独立に、プラトン『饗宴』の枠組みで担っている機能をなお働かせている在り様を浮き彫りにした。
|