「オオバナノエンレイソウにおける自家不和合性遺伝子の探索」 オオバナノエンレイソウには自家和合性(SC)と自家不和合性(SI)の集団が存在し、繁殖様式が種内で分化している。これまで展開してきた一連の研究から、(1)本種におけるSI反応は他の植物群同様、柱頭-花粉間での自他認識機構によって制御され、(2)SI集団はSC集団から進化したことが示唆されている。しかしながら、どのようにしてSCがSIに変化するのか、その遺伝的メカニズムに関しては明らかになっていない。他の分類群で報告されている自家不和合性遺伝子を参考に、相同な遺伝子を探索したところ、一致するものは得られなかった。しかしながら、本種における実験手法を確立すると同時に、柱頭・葯で特異的に転写される機能未知遺伝子を複数単離することができた。今後はDifferential Displayや2次元電気泳動をはじめとする網羅的比較解析方法を試すことで、オオバナノエンレイソウにおける自家不和合性の遺伝的メカニズムに関する新たな知見が期待される。 「オオバナノエンレイソウにおける雄性不稔個体の出現頻度とその決定要因」 オオバナノエンレイソウには雌性両全性異株集団が存在し、雄性不稔個体の出現頻度は集団間で大きく異なる。しかしながら、これら出現頻度は花粉制限などの適応的要因では説明できない。一方、出現頻度が高い集団は、過去の気候変動・地形変動に伴う浸透性交雑が指摘されている地域に集中していることが野外調査から明らかになった。cpDNAハプロタイプ、核遺伝子上のマイクロサテライト多型に基づき集団間の遺伝的関係性を調べたところ、出現頻度が高い集団が分布する地域は過去に浸透性交雑の現場となっていた可能性が示された。これらの結果から、オオバナノエンレイソウにおける雄性不稔化現象は多くの植物群で報告される交雑不親和性との関連が疑われる。
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