研究概要 |
本研究は量子・分子動力学を中心とする理論計算手法を効果的に用い臨床医工学に役立つ知見を得ることを目的としている.当該年度では,まず,分子動力学法と量子力学計算を併用してカーボンナノチューブ(CNT)と水分子の相互作用に関する解析を行った.近年,CNTは微小流路として注目を集めているが,その中でも特に生体における微小管との類似性が指摘されている直径の小さなCNTと水分子との相互作用によって発現する機能性に注目して解析を行った結果,CNT内で水分子は低密度においても水素結合を介して分子鎖を形成してその集団構造の安定性が維持され,また,平衡状態におけるそのような水分子鎖の電荷分布は分子配置の空間的拘束による影響が支配的であることを示唆する結果を得た.次に,人工的なデバイス基板と生体分子との整合性について検討するべく,水中のシリコン基板表面近傍におけるリゾチーム分子の挙動を解析し,1分子計測技術による拡散挙動の実験観測結果との比較を行った.その結果,バルクの溶液中に比べて基板近傍において著しく拡散係数が低下するという実験結果と対応する解析結果が得られた.また,基板の表面状態がリゾチームの吸着現象に与える影響を分子動力学法により追究した結果,シリコン基板の表面が酸化膜に覆われていることによって,リゾチーム分子は基板に吸着されながらも大変形することなく維持されることがわかった,生体分子の機能発現はその構造に大きく依存しているため,この結果は,純粋なシリコン基板よりも酸化膜で覆われているシリコン基板の方が生体分子の機能を工学的に応用する用途において効果的であるということを意味している.
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