本研究の目的はX線偏光計を製作し、カニ星雲の観測を行うことである。平成19年度の実験計画は、観測用X線偏光計の設計に向けたX線偏光計の性能試験、観測時のバックグラウンドの見積もり、運用環境における装置の動作試験、のである。実験計画に従って行ってきた研究の内容と成果を以下にまとめる。 1. 私たちX線偏光チームは8月、観測可能性をおおきく決定づける要素のひとつである、位置分解能の精密な測定を行った。その結果、電場強度や吸収ガスの最適化によって位置分解能は大幅に改善されることがわかった。この成果は[1]で報告させていただいた。今後引き続き電場強度と吸収ガスの最適化を行っていく予定である。 2. X線偏光計を気球に搭載して観測を行う場合の問題のひとつは、宇宙X線背景放射が地球大気によって散乱されるガンマ線が偏光観測のバックグラウンドとなることである。わたしたちチームはこのガンマ線の量を見積もり、Geant4シミュレーションを用いて観測の目標を達成するために必要なバックグラウンドシールドの種類と厚さを決定した。この成果は[4]において報告済みである。 3. 気球実験による観測計画と平行して、X線偏光計を衛星に搭載する計画も進行中である。宇宙環境では装置に宇宙線(荷電粒子)が衝突し、放電や導通破壊をおこす可能性がある。わたしたちは9月と11月に一度ずつ、放射線医学総合研究所の重イオン加速器を用いてX線偏光計の心臓部であるガス電子増幅フォイルに、宇宙線を模擬した荷電粒子を照射し耐久試験をおこなった。結果、(フラックスは小さいが)エネルギーの高い荷電粒子に対する耐久性は衛星運用で全く問題にならないことがわかった。この成果は[3]、[5]で発表した。いっぽう(フラックスは大きいが)エネルギーの低い荷電粒子に対する耐久性は、平成20年度に引き続きHIMACにおいて試験する予定である。
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