戦後日本における「市民社会」への参加/動員構造の形成過程を解明するために、本年度は、主要な政策・言説の収集、リスト・データベース化を行い、分析結果の一部を公表した。 具体的な成果としては次のとおりである。 ・戦前の参加動員構造から戦後の参加動員構造へと展開する上で、どのような断絶及び連続性が見られるのかを考察するために、民生委員制度、赤い羽根共同募金、町内会、社会福祉協議会などの資料を収集・分析した。 ・戦後のボランティア育成・推進機関として中心的な役割を果した社会福祉協議会のボランティア政策を体系的・網羅的に把握するために、資料の収集・分析を行った。 ・主に1960年代から現在までの各省庁のボランティア政策について文書の収集・リスト化と、内容の分析を行った。 ・参加に関わる法・制度の形成に関して関与した民間団体の機関紙の収集を行い、関係者へのインタビュー調査を実施した。 ・以上の分析結果の一端は、5回にわたる学会報告などで報告し、研究論文などで公表した。 以上の作業は次の意義をもつ。これまで、政府の参加/動員施策に関する網羅的な研究は存在しなかったが、今年度の研究は初めてそれらの諸施策を包括的・体系的に捉えたもので、市民社会研究において大きな意義をもっている。同様に、保守系団体も含めた民間の団体が参加型の市民社会形成のうえで実際のどういう役割を果してきたか十分に明らかにされてこなかったが、今回の調査でその概要を捉えることができた。以上の分析は、政府に対して自律的で革新の系譜にあると理念化されてきた参加型の「市民社会」概念を修正し、実際の異種混淆的な「市民社会」の構造と機能を明らかにする上で、重要な材料・知見を提供したと考えられる。
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