1.糖尿病に関与するプロテインキナーゼ(PK)の同定と解析 PKはタンパク質をリン酸化することで細胞内情報伝達において中心的な役割を担っており、様々な疾病に関与することが知られている。我々は、糖尿病における高血糖状態の持続が症状を深刻化させる糖毒性に関与するPKを同定し、そのPKの役割を解明することを目的とした。以前に作製したPKを網羅的に検出できるマルチPK抗体とPK同定法を利用して、糖尿病のモデル細胞INS-1を用いて糖毒性に関与するPKとしてCaMKIVを同定した。糖毒性状態においてCaMKIVはカルパインにより分解され、インスリンプロモーター活性を制御していることを明らかにした。さらに、糖尿病モデルラットOLETFにおいてもCaMKIVの発現量が減少していることを見出した。これらの結果は、糖尿病の深刻化の治療の標的としてCaMKIVという新たな分子を提起できると考えられる。 2.Ca^<2+>/calmodulin-dependent protein kinase II(CaMKII)触媒断片のチロシンキナーゼ活性 PKはリン酸化するアミノ酸によりセリン/スレオニンキナーゼとチロシンキナーゼに大別され、リン酸化するアミノ酸によって様々な生命現象に関与している。CaMKIIはセリン/スレオニンキナーゼとして広く知られるPKで、憶の形成などに関与する重要なPKである。我々はCaMKIIの触媒断片にチロシンキナーゼ活性があることを発見した。今回使用したCX40-30K-CaMKIIは大腸菌で大量発現させるために作製したCaMKIIの触媒断片のN末端にゼノパスCaMKIのN末端40アミノ酸を付加した組み換え酵素である。CX40-30K-CaMKIIは付加したCXタグ内部の18番目のチロシン残基を自己チロシンリン酸化し、この自己チロシンリン酸化は分子内のみで起こることを示した。この現象は生体内でのCaMKIIによる他のタンパク質のチロシンリン酸化を介した新しい情報伝達経路の存在を推測させる。
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