ヒトが外界を知覚する際、自己の運動表象とどのように関連づけ、合目的な運動を素早く生成することを可能にしているのか?この問いに答えるため、本年度は、ヒトがある対象を把持する際、大きさに依存して把持が可能か否かを、実際に運動を行う前に判断する場合に脳内のどの領域が関与するのかを調査した。 まず、所属研究室内の実験室において、各被験者がどの程度の大きさのものをつかめると感じ、どの程度の大きさのものをつかめないと感じるかを調べるため、大きさの異なる直方体の箱の映像を呈示し、その箱をつかめるか否かを答えさせる心理物理学的実験を行った。これにより、後述のfMRI実験における各被験者の応答を予測し、fMRI実験において呈示する箱の大きさを決定した。環境の違いによる影響をできるだけ取り除くため、fMRIと同様の状況(目の前に約4cm×12cmの鏡を置き、プロジェクタにより呈示した視覚画像を、鏡を通して見る)での視覚刺激呈示を行い、各被験者が50%の確率でつかめると判断する箱の大きさ(閾値)とした。 上記心理物理学実験にて求めた各被験者の閾値付近の大きさの箱を次々と呈示し.把持可能か否かの二値判断を求める課題を行っている際の被験者の脳活動を測定し、解析を行った。結果、背側運動前野に把持運動可能性判断に関わる脳領域が同定され、この領域が対象の視覚情報と自己の運動表象の関係性を計算している可能性を示唆した。現在は、この結果を論文にまとめており、投稿準備中である。 本研究により、これまで心理学的に確認されてきた運動可能性判断の脳内の責任領域が同定された。また本研究の完成により、外界の物体の情報と自己の運動表象との関係性の計算に関わる脳領域が同定され、来年度以降の計画において、脳がこの計算過程で処理している情報はどのような種類のものなのかを具体的に絞り込む準備が整った。
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