去年度までに、大量ゲノム情報の進化系統プロファイリングによる生体分子ネットワークの再構築手法を確立した。本年度は本手法による生体分子ネットワーク再構築を補助する手法として酵母マルチプロテオミクスデータの大規模データマイニングをおこない、リン酸化プロテオームおよびタンパク質間相互作用ネットワークは大規模に関連していることを発見した。はじめに、新規の酵母リン酸化プロテオーム(1993リン酸化タンパク質、6510リン酸化修飾部位)を同定し、これらを公開されているリン酸化プロテオームデータと統合した。その結果、約6000の酵母遺伝子の内、60%近くがリン酸化タンパク質をエンコードする遺伝子であることが明らかになった。次に、我々はこの大規模リン酸化プロテオームデータをタンパク質間相互作用(PPI)ネットワーク上にマッピングすることによってPhospho-PPI(Phosphoproteome+PPI)ネットワークを作成し、他の酵母マルチプロテオミクスデータ(プロテオーム発現量、構造、リン酸化タンパク質結合ドメイン、シグナリングリアクトーム、キナーゼ基質オミクス)と統合した。その結果:1、Phospho-PPIネットワークではリン酸化タンパク質が有意に多くの相互作用数をもつことを発見し、他のマルチプロテオミクスデータとの解析によって、大規模で可逆的な細胞内リン酸化反応がタンパク質複合体形成のダイナミクスに影響を与える可能性を示した。 2、また、細胞内では複合体を形成しているタンパク質群はひとつのキナーゼに一斉にリン酸化されるような現象が多いことを示した。 本成果は、細胞内におけるリン酸化プロテオームおよびタンパク質間相互作用ネットワークの間にある大規模な影響について光をあてるものであり、今後これらの細胞内ダイナミクスを考える上で基盤となる解析技術を提供するものである。
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