本研究は、フランスの哲学者エマニュエル・レヴィナス(1906-1995)の哲学を「場所」という主題を中心に読解することによって、その新たな総括的解釈を提示するとともに、「場所」の主題に関わる現代的な諸問題に理論的枠組みを提供することを目的とする。本年度は特に以下の三点に関する研究を実施し、それぞれについての調査結果を論文の形にて発表した。 1.レヴィナスの1940年代の著作を中心に、そこで展開されている「場所」についての議論を整理しつつ、20世紀初頭に「環境世界」の問題を提起している他の学問領域とレヴィナスの哲学との思想的接合の可能性について検討を行った。特に、レヴィナスの初期著作を参照している地理学者エリック・ダルデルの著作『人間と大地』(1952年)の批判的読解によって、この主題をめぐるレヴィナスの議論の焦点を逆照射することを目指した。 2.レヴィナスはおもに1970年代の著作において、「場所」の所有が他者によって審問されるという点に倫理的関係の本質を見て取っているが、その行論のなかで大きな役割を担っているのは「われここに」という聖書的表現である。レヴィナスの70年代の主著の読解およびマルティン・ハイデガーの哲学との比較検討を通じて、この表現がレヴィナスの哲学において有している意義を明らかにした。 3.レヴィナスにおける「場所」の主題は、イスラエルおよび「約束の地」をめぐるレヴィナスの議論においても問題となるが、とりわけ1967年の第三次中東戦争(「六日戦争」)の前後に発表されたレヴィナスのテクストを集中的に読解することによって、ユダヤ教由来の「約束の地」に関するレヴィナスの思想がいかなる仕方でその哲学と切り結ぶのかを考察した。
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