上回り回線での電力制御の問題は「ナッシュ均衡問題」として定式化することができる。既存の電力制御問題では、基地局から遠く離れたユーザーは最低限のサービスさえ得られる保証がない。また、既存の電力制御問題を解くためのアルゴリズムはいくつか提案されているが、それらに関する解への収束性は数学的に証明されていない。本年度では、それらの問題点を解決するための以下の二つを提案することに成功した。 1.すべてのユーザーが十分なサービスを得られるような電力制御問題の導入; 2.その問題を解決するための新たなアルゴリズムの提案。 1.については、既存の電力制御問題の戦略集合にすべてのユーザーが最低限の品質を得られるような新たな条件を加えることで問題を導入することができている。しかしながら、新たな戦略集合を与えたため、導入した新問題を解くことは大変困難であった。その問題を解くための道具として「非拡大写像の不動点理論」があることに気付き、その理論を用いることである種の均衡問題である「非拡大写像の不動点集合上の変分不等式問題」に帰着できることに気付いた。この問題は博士課程から研究を進めており、また、受入研究者である山田功准教授との共同研究でもいくつかの成果を得ているが、残念なことに、1.で得られた「変分不等式問題」の条件が非常に弱いため、今までに提案されているアルゴリズムを適用することができない。そのため、2.では、「平均手法」を用いた(エルゴード手法とも呼ばれる)アルゴリズムを提案し、収束定理についても数字的証明を与えた。この結果は工学及数字の両観点から見ても新しくまた画期的である。
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