本年度の研究では、生体神経細胞に酷似した分化・成長過程を辿ることが知られているP19胚性腫瘍細胞をモデルとして神経細胞への分化誘導を行い、神経誘導を行ったP19細胞を微小電極アレイ基板上で培養を行った。神経誘導を行ったP19細胞は培養後2、3日で神経細胞様の突起を伸展し、培養開始後10日には複雑な回路網を構築する。免疫染色法による特定蛋白質のイメージングを行った結果、P19由来の細胞の多くが神経細胞のマーカー分子であるMAP2に対して陽性を示した。また、少数の細胞はグリア細胞の一種であるアストロサイトのマーカー分子であるGFAPに対して陽性を示した。このことから神経系への誘導を行ったP19細胞は神経細胞及びアストロサイトへと分化しており生体内と同様に神経回路網を構築していることが示された。次に微小電極アレイ基板システムを用いてP19細胞由来の神経回路網の電気活動計測を行った結果、培養2週間後において、初代培養神経回路網及び実際の脳神経回路網の特徴的な活動として知られている広範囲に渡る同期バースト活動が観測された。また、この同期バースト現象は抑制性シナプス阻害薬であるbicucullineの添加によってその活動頻度が増大することを見出した。これらの結果は生体外で構築された幹細胞由来の神経回路網は生体内の神経系と同様に興奮性・抑制性両方の結合特性を有し、生体の脳神経系と同様の活動機能を有することを示すものである。以上、幹細胞由来の神経回路網の活動機能についての検討を行い、生体外において構築される幹細胞由来の神経回路が機能的な回路網活動を示すことを見出した。
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