研究課題
本研究では、強誘電性と磁気秩序が同時に発現するマルチフェロイクスに着目し、電場による磁化の制御や磁場による誘電性の制御が可能となる電気磁気効果が強く発現する物質の開発、探索を目的とした。本年度は、フェリ磁性体イットリウム鉄ガーネットY3Fe5O12(YIG)において発見した磁場によって制御可能な量子常誘電性の研究を中心に行った。YIGは電場冷却することによって1次の電気磁気効果が発現することが過去に報告されていたが、効果の発現に必要な時空間反転対称性の破れは観測されておらず、その発現機構は未解明であった。また、この電気磁気効果は印加する磁場の方位によって、効果の強度が大きく変化することが知られているが、その起源についても不明であった。本研究では、YIGにおいて誘電緩和が存在し、その緩和強度が磁場を印加することによって増大することを発見した。さらに、その変化は磁場の方位によって大きく変化することも見出し、誘電緩和と電気磁気効果の相関を見出した。通常の誘電緩和現象は、最低温度において凍結(緩和時間が無限大)になるが、YIGで観測された誘電緩和現象は最低温度においても10ms程度の有限な緩和時間を示している。このことは、誘電緩和現象を発現させる電気双極子が最低温で量子トンネル効果によって緩和していると考えられ、YIGにおいて量子常誘電性が発現していることになる。酸素欠損などによる過剰電子がFeサイトに局在し、Feサイト間を量子トンネルすることによって量子誘電緩和が発現するモデルを考え、それにより磁場による量子常誘電性制御の振る舞いを説明することに成功した。この研究成果は、磁場の方位によって量子常誘電性の制御を示した世界で初めての例である。
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