研究概要 |
精神作用薬であるPCP(phencyclidine)はヒトおよび動物モデルで統合失調症様の陽性症状と陰性症状を引き起こすため、現在のところ統合失調症の最も有効な薬理学的モデルと考えられている。我々はPCPの急性投与に応答して発現が有意に変化する遺伝子をマイクロアレイにより探索し,それらの統合失調症発症への関与を患者検体を用いた関連解析により検討した。PCP急性投与ラットの脳の5部位から単離したトータルRNAのマイクロアレイ解析を行い、90個のannotated遺伝子と21個のESTにおけるPCP投与による発現量の変化を観察した。同一処理別個体から独立に単離したトータルRNAを用いた定量的RT-PCRにより,12個の遺伝子につきPCP投与による発現量の変化が確認された。2倍以上の発現量変化が確認された10個の遺伝子を統合失調症感受性遺伝子の候補として、日本人統合失調症304検体と日本人健常人304検体を用いて、統合失調症との関連解析を行った。DUSP1、PLAT、BTG2、ADAMTS1、NR4A1、PTGS1について解析が終了している。これらの遺伝子領域に合計24個のSNPを選択し、タイピングした。各SNPの遺伝子型頻度、アレル頻度についての関連解析に加え、各SNP間の連鎖不平衡解析を行い、ハプロタイプによる関連解析を行った。各解析で見られた統合失調症との有意な関連はFDR(false discovery rate)法で多重検定の補正を行った。その結果、いずれのSNPの遺伝子型頻度、アレル頻度においても、統合失調症との有意な関連が見られなかった。しかし、PLAT、BTG2、NR4A1のハプロタイプ頻度において、統合失調症との有意な関連を見いだした。従って、日本人集団においてDUSP1、ADAMTS1、PTGS1は統合失調症発症に主要な役割を果たしていないと考えられたが、PLAT、BTG2、NR4A1は統合失調症感受性遺伝子であると結論した。
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