本研究は、潜在的に大きなスピン偏極率を有するホイスラー合金を用いた、高品質エピタキシャル強磁性トンネル接合(MTJ)の製作技術を確立し、優れたスピン輸送特性を実証することを目的としている。特に、本研究では、ホイスラー合金の中でも完全スピン偏極を示すことが理論的に指摘されているCo_2MnSi(CMS)薄膜を用い、これとMgOの優れた格子整合性の点に着目し、急峻かつ平坦なトンネル界面を有するMTJの製作を目指している。これまでに、CMSを下部電極、MgOをトンネルバリアとして用いた、CMS/MgO/Co_<50>Fe_<50>エピタキシャルMTJを作製し、室温で90%、4.2Kで192%の比較的高いトンネル磁気抵抗比(TMR)比を実証している。しかしながら、MTJにおけるTMR比は、電極材料のスピン偏極率の値に依存するため、下部電極に加え、上部電極にも本質的に高いスピン偏極率を有するCMS薄膜を用いることで、さらなるTMR比の向上が期待される。そこで、本年では、これまでの結果を発展させ、上部・下部両電極にCMSを用いた、全層単結晶エピタキシャル成長のMTJ(CMS-MTJ)の作製を試みた。ここでは、上部CMS電極の堆積後に施すポストアニールの温度を最適化した結果、最大で、室温で179%、低温4.2Kで683%の高いTMR比が得られた。また、この得られたTMR比の値から、CMS電極の実効的なスピン偏極率を見積もったところ、低温で0.88の高い値が得られた。以上の結果は、潜在的に高いスピン偏極率を有するCMS薄膜と単結晶MgOトンネルバリアとのエピタキシャル界面が、高いスピン偏極率の実現を可能とし、その点において、様々なスピントロニクスデバイスに有用であることを示している。さらに、作製したCMS-MTJは、温度依存性・バイアス電圧依存性において、特徴的な非常に強い依存性を示しており、デバイスへの応用面を考慮すると、今後、これらの特性を解析・改善することが不可欠であると考えられる。
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