1.放線菌Streptomyces griseusは自身で微生物ホルモンとも呼ばれるA-ファクターを生産し、この菌においてグローバルな役割を担う転写活性化因子AdpAの転写を誘導する。AdpAは様々な遺伝子の転写を活性化させることにより、放線菌の二大特徴である形態分化と二次代謝を引き起こす。AdpAの標的である遺伝子strRは経路特異的転写活性化因子をコードしており、抗生物質ストレプトマイシン(以下Sm)の生産を制御する。これまでにstrRの転写を制御する因子としてAdpAのみが知られていたが、2005年に他グループにより同属S.coelicolor A3(2)の染色体にコードされた転写因子AtrAがStrRのプロモーター上流部位を含むDNA断片に結合すると報告された。この報告からS.griseusのコードするAtrAがstrRの転写を調節する可能性が示唆され、解析を行った。組換えAtrAを用いてゲルシフトアッセイを行い、S.griseusのAtrAもまたStrRプロモーター上流部位に結合することを示した。一方遺伝子破壊株で、培養条件によっては野生株と比べてSm生産量の減少が見られた。adpA破壊株ではSmは全く生産されないことから、AtrAはSm生産を微調整する役割を担う転写因子であると考えた。 2.S.griseus野生株とadpA遺伝子破壊株との間での転写比較をDNAマイクロアレイを用いて行った。AdpA依存的な転写パターンを示す遺伝子群の中で、胞子形成に関わるとされるWhiBのホモログをコードする遺伝子群に注目し、解析を行った。まだ解析途中ではあるがこの中でSGR3340について先行して解析を行ったところ、その遺伝子破壊株では気中菌糸形成能が低下していた。つまりSGR3340は放線菌の気中菌糸形成に関わる新たな因子であることが明らかとなった。
|