本年度の研究計画に従い、量子的粒子と量子場の相互作用する系のハミルトニアンの構造の解析として、主に状態の物理的性質について研究した。本年度の研究成果は主に次の2つである。 1.繰り込み群の方法を用いた電子場と相互作用する量子系の研究。 電子を代表とするフェルミ粒子の場が、ある量子系と相互作用する系のハミルトニアンの固有値と固有ベクトルの存在を繰り込み群の方法を用いて構成的に示した。光子を代表とするボーズ粒子の場の場合には、繰り込み群の方法を用いた構成的手法が知られていたが、本研究では、それがフェルミ粒子の場合にも有効であることを示した。固有ベクトルは物理的には系の安定な状態を表現している。この結果は、固有ベクトルが具体的に構成できるので、本研究の課題のひとつである束縛状態の物理的性質の解析において重要なステップのひとつである。 2.電子と光子場の相互作用系における物理的状態の研究。 電子間の相互作用を媒介する光子場のとりうる状態(物理的状態)について研究した。系の状態はハミルトニアンの作用するベクトルによって表されるが、これまでは、電子がない光子場だけの場合に、光子の横波の状態だけが許されることが証明されており、実験結果(縦波は観測されない)と合致していた。本研究では、電子がある場合には、どのような状態が許されるかについて研究し、横波の光子だけ許されるための必要十分条件を導いた。この条件が満たされない場合には、光子場の状態を表すベクトル空間が、電子が無い場合の状態のベクトル空間とは異なることを証明した。 以上の研究は、数学的に厳密な方法で研究されているが、物理的にも興味深い内容を含んでいるので、数学の研究集会だけではなく、数学数理物理の研究集会でも講演した。また、これらの研究一部は論文としてまとめ、欧文雑誌や会議報告などとして発表している。
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