研究概要 |
乳酸菌の腸管付着メカニズムの解明は,その有効利用を考えると非常に重要であるが,未知の部分が多い.これまでにヒト腸管組織から30菌株の乳酸菌を直接単離し,BIACORE付着試験によりヒト大腸ムチン(HCM)へ特に高い付着性を有するLactobacillus plantarum LA318株を選抜した.さらに,LA318株の付着因子がグリセルアルデヒド-3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)であることを発見した.本年度では以下の5点を明らかにした. 1,単離菌の表層GAPDH保有の有無を調べたところ,30菌株中21菌株でGAPDHが確認され,HCMへの付着性ともある程度の相関性が見られた.このことから,多くの乳酸菌の菌体表層にGAPDHが発現しており,腸管付着に寄与していることが示された. 2,ムチンのどの部位が付着に関与しているのかを検討した.過ヨウ素酸酸化試験の結果,ムチンの糖鎖が重要であることが分かり,血液型抗原への付着性を検討したところAおよびB型へ高い付着性を示した.さらに,ハプテン糖阻害試験(単糖)よりGAPDHは単糖を認識しないことを,様々な糖鎖プローブを用いた付着性試験により,血液型抗原(AおよびB型)への付着には三糖構造が重要であることを明らかにした. 3,GAPDHの糖鎖認識部位を解明するため,NAD付着阻害試験を行った結果,NAD^+添加によりGAPDHのHCMへの付着が減少した.これによりGAPDHのN-末端部分のNAD結合ドメインが付着に関与していると考えられた. 4,シグナルペプチドを持たないGAPDHの細胞外輸送をABCトランスポーターの阻害剤を用いた試験により検討した.その結果,添加量依存的にGAPDHの表層への移行が阻害され,GAPDHの細胞外への輸送には,ABCトランスポーターが関わっていることが示唆された. 5,表層GAPDHを持つ病原菌としてCandia albicansを用いLA318株による付着阻害試験を行った.10倍の乳酸菌の添加で,約30%(酵母および仮性菌糸型,排除)から50%(仮性菌糸型,置換)の阻害率を示した.これにより,LA318株を用いたカンジダ症の予防および治療の可能性が示された.
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