細菌における植物細胞壁分解機構に関する研究は、植物細胞壁多糖に対する細菌の分子応答機構を明らかにし、未利用バイオマスの有効利用や植物の細菌感染症予防に繋がる。【RGリアーゼYesWとRGヒドロラーゼYteRの構造生物学】枯草菌由来のYesWタンパク質は植物細胞壁構成多糖ラムノガラクツロナン(RG)-Iの分解に関わるRGリアーゼであり、YteRタンパク質はRGリアーゼ反応産物に作用する不飽和ガラクツロニルヒドロラーゼである。YesWの立体構造を、金誘導体結晶を用いた単波長異常分散法を用いて決定した。YesWは、多糖リアーゼ(PL)ファミリーにおいて新規なフォールディングであるβ-プロペラ構造を有していた。YesWと基質アナログとの複合体構造を決定したところ、糖はβ-プロペラの中心に位置するクレフトに結合していた。糖との相互作用に関わる構造並びに部位特異的変異解析により、Arg452とLys535が基質のカルボキシル基を認識する残基であり、活性クレフトの近傍に位置するカルシウムイオンが活性発現に重要であることが分かった。また、YteRのAsp143をAsnに置換した不活性変異体と基質との複合体の立体構造を決定することにより、Aspl43を一般酸塩基触媒としたYteRの反応触媒機構を明らかにした。これらの結果に基づき、細菌における植物細胞壁多糖RG-Iの主鎖の分解機構を初めて明らかにした。本研究結果は、植物細菌感染症に対する阻害剤の開発を可能とする。【植物細胞壁分解に関わる枯草菌のエコシステム】枯草菌は、植物細胞壁構成多糖であるペクチンやRGを単一炭素源として良好に生育するため、強力な植物細胞壁分解系を有することが示唆される。本年度はDNAマイクロアレイ解析により、ペクチンとRGの分解に際して誘導発現する遺伝子を探索した。その結果、150〜200の遺伝子がこれらの多糖分解に関与していることが示唆された。今後それらの遺伝子ネットワークの発現機構を明らかにし、植物細胞壁の分解に関わる枯草菌エコシステムの解明を目指す予定である。
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