他者の観察を通して知識を習得する社会的学習は、個体が独力で知識を習得する個体学習と比較して労力や時間を大幅に節約できる。しかしながら、他者の有する情報は必ずしも価値があるとは限らない。そのため、個体は自分にとって価値の高い情報を得るために、見境なく社会的学習を行うのではなく、他個体をモニターすることによって、どのような相手から社会的に学習するのかを選択する必要がある。こういった、社会的学習のモデルを選択的に決定する能力はどのように発達するのであろうか。 他者と特定の対象に関して「共同注意」を行うことは、ヒトにとって、他者からその対象に関する知識を社会的に学習する重要な契機となる。ヒト幼児が特定の対象に関する知識を、日常的に社会的行動を行う同年齢の他児から学習しているとすれば、ヒト幼児は同年齢の他児と共同注意を行っていると考えられる。しかしながら、幼児が同年齢の他児と共同注意を行っているかどうかに関してはほとんど検討されてこなかった。そこで本年度は、集団保育場面において、幼児が同年齢の他児の視線方向を追従することにより、他児と共同注意を行うかどうか検討した。 3歳齢幼児を対象に検討した結果、他児が特定の対象へ視線を向けているのに幼児が気づいた場合は、気づかなかった場合や、幼児が独りでいた場合と比較して、有意に高い割合で特定の対象に気づくことが明らかとなった。このことから、幼児は同年齢の他児の視線方向を追従し、共同注意を行うことが明らかとなった。 本研究で得られた結果は、幼児が同年齢の他児と共同注意を行う能力を有することを、妥当性の高い方法によって解明した初めての研究である。この意義が認められ、今年度の研究成果は英文雑誌『Infant Behavior and Development』に掲載されることが決定している。
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