細菌のべん毛モーターは運動器官としては生物最小の回転モーターであり、同時に細菌の持つ器官の中で最大の大きさを誇る超分子ナノマシンである。本研究の目的はこの細菌べん毛モーターの機能的単離及びin vitroでの再構成である。本研究ではべん毛基部体構成因子であるPリングと固定子タンパク質MotBを架橋させることで固定子を回転子とともに単離しようと研究を進めている。本年度の研究としては、大腸菌において部位特異的変異導入により10残基ごとにアミノ酸をシステイン残基に置換した網羅的Cys置換体をPリングタンパク質FlgI及びMotBに対してそれぞれ作製し、これらのCys置換体を発現させた時のタンパク質量、菌の運動能、置換残基がCys特異的修飾試薬によってラベルされうるか、の3点について解析し、分類わけを行った。その結果、タンパク質安定性および運動能に重要な残基と修飾試薬でラベルされやすい残基がほぼ重なり合わないことを見出した。この内容を学術誌Microbiology誌に発表した。これらの結果を踏まえ、FlgIとMotBのジスルフィド架橋における有用なCys置換体の候補としてFlgI 4種、MotB3種の置換体を選び出し、これらのCys置換体を組み合わせて共発現させた。作製した共発現株に対し、酸化剤処理を行ったところ、FlgI GllCとMotB S248Cの組み合わせで両者の架橋産物らしいバンドを検出した。ついで、架橋効率の向上を図るため、FlgI Glyll及びMotB Ser248の周辺残基のシステインスキャニングを行い、同様の架橋実験を試みた。最終的に、FlgI GllCとMotB R250Cの組み合わせで架橋効率の増加を確認した。本年度の研究によってFlgIとMotBの架橋をタンパク質レベルで確認するところまで到達した。
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