研究概要 |
本年度は、乳がん患者に対する縦断的質問紙調査を引き続き行ったことに加え、乳がん患者の配偶者に対する質問紙調査を行い、結果をまとめた。 まず、乳がん患者に対する縦断的調査の7時点のうち、入院時(T1;N=201)、1ヶ月後(T2;N=196)、半年後(T3;N=196)のデータを用いて、解析を行った。親しい他者からのネガティブサポートの中で、過剰関与と問題回避は時間の経過に従って減少するサポートであり、過小評価は変化しないサポートであることが示された。また、各時点でのネガティブサポートが心理的適応に及ぼす影響を検討したところ、3時点ともに問題回避のみが有意な影響を及ぼしていた(T1:β=0.27,p<0.01;T2:β=0.34,p<0.01;T3:β=0.27,p<0.01)。親しい他者が問題回避していると報告している患者には、NEOによる性格傾向に特徴はなかったが、感情抑制傾向が強いことがわかった(r=0.27,p<0.01)。このことから、二者間の問題回避は、どちらか片方ではなく両者のダイナミズムの問題として捉える必要があることが示唆された。 そのため、乳がん患者の配偶者(N=368)を対象に、どの程度患者に対して問題回避を行っているのか、また、問題回避を行う配偶者の特徴を調べることを目的に質問紙調査を行った。その結果、ときどきよりも頻回に問題回避をしている配偶者が、診断直後では約半数、また現在(術後平均2.4年)でも約35%いることが明らかになった。また、配偶者自身の問題回避と患者がとっていると認識している問題回避との相関は強かった(r=0.62,p<0.01)。問題回避をとる配偶者の特徴として、がんに対する脅威性が高い、侵入想起症状が強いという特徴が明らかとなり、問題回避をとることには、配偶者の性格傾向や家族機能ではなく、配偶者自身の心理的不適応が背景にあることが明らかとなった。 これらの結果から、患者と配偶者の両者の視点にたった心理支援ツールを開発し、乳腺外科のある病院やクリニックの外来、ホームページなどで情報発信する準備を進めている。
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