本年度の目標は、公的機関でもマイクロフィルムさえ披見できない古態本『太平記』伝本の基礎調査と、古態本『太平記』の表現の問題について考察することにあった。本年度の研究活動をまとめると、以下の三点に大略まとめることができると考える。 1、古態本『太平記』の調査 静嘉堂文庫蔵松井本『太平記』の書誌調査を行い、紙焼き写真をとった。また、前田尊経閣蔵織田本『太平記』の紙焼き写真をとった。これらをもとに、本文の校合・調査を進めているところである。 2、『難太平記』の調査・考察 (1)『太平記』の成立過程について具体的に語っている、室町時代初期の唯一の資料である『難太平記』の伝本調査を行った。具体的には、宮内庁書陵部・京都府立総合資料館・久留米市立中央図書館等の伝本を調査した。特に、久留米市立中央図書館蔵の写本は、存在は知られていながらその特徴は報告されていない。その報告は次年度にする予定である。なお、同図書館所蔵の軍記物語の書誌調査も行ったので、この報告についても整理出来次第行いたいと考えている。 (2)また、『難太平記』の記事と対応させながら、古態本を中心とした『太平記』の本文形成問題についても考察を加えた。これらの調査を踏まえた成果を、三本の論文にまとめ発表した。 3、龍門文庫蔵豪精本『太平記』の調査 『太平記』伝本中、いまだ詳細な調査されていない丁類に分類されている伝本のうち、興味深い伝本であるといわれながら、その内容が知られていない豪精本『太平記』の調査を行った。本年も七月と三月の年二回の閲覧日に調査したが、この調査は今後も続けていく予定である。
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