遺伝子組み換え技術は、突き詰めるとDNAを位置選択的に切断し、他の遺伝子と繋ぎ合わせる2つの要素に集約される。しかし、DNA切断に用いられる天然制限酵素は、切断位置が限定されたり、選択性が不十分であったりと、ゲノムなどの巨大DNAを扱うツールとしては十分とは言えない。これに対し我々は、DNA加水分解触媒Ce(IV)/EDTAとPNA(ペプチド核酸)を併用した人工制限酵素の構築に成功している。本系は天然を超える高い位置特異性と自由度を有し、今後のバイオテクノロジーの発展には非常に有用である。ただ、切断効率の面については改善の余地があった。そこで本研究では、切断効率・選択性をより向上した次世代人工制限酵素の構築を目指した。本年度は、選択性に関係するPNAと、切断効率に寄与する配位子に注目し研究を進めた。 まずPNAについては、骨格中にリンカー部位を導入した、新たな修飾法について検討を行った。これまで様々なPNA誘導体が報告されているが、ほとんどが骨格長け同じままキラリティのみを制御したPNAである。それに対し私は、DNAに比べPNAの1ターンの塩基数が大きく増加している点に着目し、PNA骨格中にリンカーを導入する十分な余地があるのではないかと考え、様々な長さのシンカーを導入したPNAを合成、評価を行った。若干のTm低下は見られるものの、いずれの修飾PNAも相補鎖DNAを正確に認識することがわかった。現在機能性リンカーを用いることで、新たな機能を付与したARCUTについて検討中である。 これまで、リン酸系配位子を切断部位近傍に配置することで、Ce(IV)/EDTAを局所的に濃縮させ、切断効率の向上に成功している。なかでも複数のリン酸基を有するEDTP配位子が最も有効である。さらに、今年度は従来のCe(IV)/EDTAの代わりに、Ce(III)をEDTP上で空気酸化し活性を有するCe(IV)を生じさせた、EDTAフリーな簡素かつ効率的な系を構築した。今後は、本系の切断機構など詳細な検討を行う。また、2本鎖切断系へと展開すべく、PNAへのEDTP修飾についても現在検討中である。
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