平成20年度では、武力紛争と国家主権に対する人道主義の規範的機能について、以下の観点から研究を前進させた。1.人道的介入は人道危機を緩和する例外的措置としてのみ正当化されるに過ぎず、人道危機に対応する原則的対応は赤十字国際委員会を初めとする人道支援機関による伝統的人道支援であり、そのような人道支援活動を円滑に展開するための人道的介入の必要性に関して議論した。この研究成果は、南山大学倫理研究所紀要『社会と倫理』第22号掲載論文「紛争被災者に対する『保護する責任』-人道支援の配分的正義をめぐって」の論考の中で公表した。2.人道的介入は人道危機を緩和する軍事的措置として正当化されることで、軍事介入の主体である大国を中心とする国連安全保障体制も強化したが、2001年の対テロリズム戦争以後、大国の人道危機への関心が薄れることで人道危機への対応は原則的対応である人道支援機関の伝統的人道支援に回帰したことを解明した。この研究成果は、京都女子大学現代社会学部紀要『現代社会研究』第11号掲載論文「国際秩序と人命救助-冷戦終結以後の人道的介入の正当化に関する議論を中心に-」の論考の中で公表した。3.2001年の対テロリズム戦争以後、中立と公平の原則を放棄して武力紛争の解決を目的とする人道支援活動の新しいあり方が模索され、「新しい人道主義」の理念として表明されるようになってきた。このような「新しい人道主義」は人道支援活動が大国による国際統治の手段として利用されることを容認することになり、人道支援機関の自由裁量の余地である人道的空間を確保するためには伝統的な中立と公平の原則を維持する必要性を説いた。この研究成果は、2008年10月の日本国際政治学会報告「新しい戦争と新しい人道主義-国際統治・管理の手段としての人道支援」において公表した。
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