本年度は特別研究員採用に当たって研究課題としていた点のうち、近世天皇の日常の世話をした非蔵人の存在形態の検証を中心的に研究した。その中でふたつの具体的な課題に取り組んだ。 第一に、非蔵人の存在形態の検証。これまで近世の非蔵人については研究が乏しいので、東京大学史料編纂所・京都市歴史資料館・京都府立総合資料館に所蔵されている非蔵人に関する史料(例えば、松尾家記録写真帳や松尾家当主による日記、羽倉敬尚による旧蔵文書の写本など)を用いて、非蔵人を勤めた家柄の確定、近世非蔵人の成立過程、禁裏御所・仙洞御所における非蔵人の役割、堂上公家との関係などを検証した。その作業として、600人に及ぶと思われる非蔵人データベースの作成を行なった(現在もなお作業途中である)。第二に、非蔵人を含んだ公家社会の文化的動向の検証。上記の課題のうち、禁裏御所・仙洞御所における非蔵人の役割を調べていく中で、非蔵人の文化的力量が禁裏御所・仙洞御所の中で大きな影響を持っていることが判明した。既に、堂上公家や地下官人の文化的力量については、報告者の博士論文でも若干触れたが、当時の文化を考える上で、非蔵人の存在は欠かすことができないと思い、これまでの関心と相俟って、公家社会の文化的動向をより詳細に明らかにする作業を進めた。具体的には、近世に至って家職として確立した持明院流入木道(書道)を事例として、持明院流入木道の門人の確定、持明院流入木道成立の契機、門人となる人々の意識を検証した。その作業として、東京大学史料編纂所に所蔵されている持明院家に提出された門人誓詞の写真帳から294人に及ぶデータベースを作成し、それぞれがどのような人物かという確定を進めている(現在もなお作業途中である)。
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