本研究では、遺伝子導入以外の方法で遺伝子の発現を特異的に改変可能な育種法を開発するため、Cucumber mosaic virus(以下、CMV)に由来するウイルスベクターを用い、標的遺伝子に対して特異的に転写抑制型ジーンサイレンシング(Transcriptional Gene Silencing;TGS)を誘導する系の開発を行っている。 外来性遺伝子へのTGSの誘導・維持機構の解明については、新規の挿入配列を持つCMVベクターを作成して解析を行った結果、挿入配列の長さが70bp以下の場合はTGSの誘導効率が著しく低いことが明らかとなった。続いて、所属研究室にて実験系が確立していたsodium bisulfite法をNicotiana benthamianaに適するように一部改訂し、各接種当代個体および自殖後代個体でのゲノム中に挿入された35Sプロモーター配列の広範なメチル化状態を解析した。その結果、TGS誘導、および維持の成否とメチル化頻度との間には強い相関関係があることが明らかとなった。 一方、CMVのゲノムにコードされる2bタンパク質によるTGS増強効果の検証についても、2b ORFの有無のみが異なるCMV2-A1ベクターおよびCMV2-H1ベクターを用いて解析を行った。現在までに、ウエスタンブロット解析による2bタンパク質の有無の確認、sodium bisulfite法による両ベクター間のメチル化誘導能力の差の検証、核内での35Sプロモーター配列と相同な配列を持つsiRNAの蓄積量の比較、の3点の解析を行い、いずれも2bタンパク質によるTGS増強作用を強く示唆する結果を得ている。 最後に、内在性遺伝子へのTGS誘導系の確立については、シロイヌナズナで同定されているROS1遺伝子配列をもとに、N.benthamianaにてオーソログの部分配列を単離した。
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