投稿準備中であった平滑筋細胞に関する論文を、さらに良いジャーナルに投稿できるレベルにまで仕上げるために追加実験を行った。そして、この論文の執筆中に、本研究にも関わる重要な実験を早急に行わなければならないことに気が付いた。すなわち、『化学固定の効果を1分子レベルで定量する』ことである。現在の生命科学研究に必要不可欠な技術である免疫蛍光染色法、免疫電顕法には必ずといっていいほど化学固定法が用いられているが、現在頻繁に用いられている化学固定法は、どの分子がどの程度固定されるかといったことはまったく定量されていない。そこで、本研究でも用いる典型的な化学固定で、細胞膜分子1分子の固定効果を1分子追跡法を用いて定量した。細胞膜の細胞質側にあるLynなどのタンパク質は、典型的な固定条件である『4%パラホルムアルデヒド溶液で90分』では1分子の運動は96%止まるが、ラフトやシグナル伝達に関わるGPIアンカー型タンパク質は40%以上がまだ運動していた。さらに終濃度が0.2%になるようにグルタールアルデヒドを加えても15%の分子がまだ動いていた。リン脂質に関しては、80%以上が固定されない。これらの結果により、頻繁に用いられている化学固定後も生体分子が十分に固定されておらず動いている可能性があることが明らかとなった。これに関しても論文を執筆し、有名なジャーナルに投稿準備中である。 また、本研究に関しては、比較的困難とされているラット海馬由来のニューロンの低密度初代培養に成功し、生きているニューロンを長時間観察するためのCO2チャンバー付顕微鏡システムを立ち上げ、生きているニューロンを長時間観察することにも成功した。また、ニューロンでの1分子追跡の練習問題として、蛍光リン脂質プローブであるCy3-DOPEをニューロンの細胞膜に導入し、この顕微鏡システムで1分子追跡できることにも成功した。
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