パイロクロア酸化物で発現する絶対零度における巨視的縮退状態、「スピンアイス」状態において磁気配置/緩和を観測しその機構を明らかにすることを目的としている。Dy_2Ti_2O_7は、幾何学的フラストレーション系であり、極低温においてもエントロピーの約30%が解放されないことが知られている。また、熱励起によるトポロジカル欠陥により疑似的な磁気単極子が生じることが予想されており、この「単極子」の性質も興味深い問題である。 当該年度の研究では、希釈冷凍機を用いて0.1Kまでのスピンアイス状態における^<17>O同位体濃縮単結晶試料を用いたゼロ磁場NMR実験を行った。広がったスペクトラムはスピンアイス状態における乱雑な内部磁場を反映しており、モンテカルロ計算のスピン配置からの双極子磁場によって説明できた。NMR緩和時間は0.5Kを境に温度依存性が変化しており、0.5K以上の温度域では熱励起型であり、おそらく前述の「単極子」の伝播によるゆらぎであると思われる。しかし、0.5K以下では緩和時間は弱い温度依存性を示し、熱励起を必要としない量子ゆらぎによる緩和機構の存在を強く示唆している。これらの結果を学会発表2において発表した。^<17>Oゼロ磁場NMRの特筆すべき事として、「単極子」がスペクトラム上で別の場所に現れる事が予想される。今後、疑似「単極子」の観測を試みた後、これまでの結果を論文にまとめる予定である。 学会発表1、3において、超高圧(>4GPa)NMR実験装置の開発/改良を報告した。実用的な固体NMRを8GPaまで行える事(試料体積が大きい7mm^3、圧力伝達媒体にアルゴンを用いる事により静水圧性がよい、ルビー蛍光法で信頼性の高い圧力決定が可能、2軸回転)がこれまでの圧力装置に比べて新しい点てある。また、この装置を用いた実験を行い、鉄ヒ素系高温超伝導体SrFe_2As_2において約5GPa以上でバルクとしての超伝導が存在する事、この超伝導相が小さいスケールで反強磁性相と超伝導相が共存している磁性超伝導相であることを明らかにした。(学会発表4)
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