AβのBBBを介した輸送メカニズムの解明には細胞レベルでのAβ輸送の解析が必須であった。申請者は従来初代培養細胞では困難とされてきた、Aβ輸送評価系をTR-BBB細胞を利用して確立した。本年度申請者はLRP1を標的としたRNAi実験により、LRP1の関与をさらに詳細に調べたところ、LRP1の発現の低下により、Aβの細胞内取り込みが低下することを見いだし、LRP1がAβの輸送に関与していることを遺伝学的にも証明した。さらに、LRP1のノックダウンを行った細胞ではAβの細胞表面結合量が低下していることを見いだした。申請者はAβはLRP1には直接結合しないという実験結果を得ており、AβはTR-BBB細胞表面上のLRP1以外の結合分子co-receptorに結合することで内在化されるものと推測される。従ってLRP1のノックダウンでAβの細胞表面結合量が減少したという結果は、このco-receptorの発現がLRP1の発現に依存していることを示す結果と考えられた。 さらにTR-BBB細胞で得られた結果をin vivoで確かめることを目的に、LRP1の血管内皮細胞特異的ノックアウトマウスの作出を行った。血管内皮細胞特異的プロモーターTie2の下流にCreリコンビナーゼを発現するTie2-CreトランスジェニックマウスとloxP配列をノックインしたLRP1 flox/floxマウスを交配することでCreを発現し、かつflox/flox配列を有するviableなマウス個体を得た。このマウスの脳から血管を豊富に含む画分を粗精製して、血管内皮細胞で確かにLRP1の発現が低下していることを確認した。現在神経細胞特異的に変異型APPを発現し、脳内にアミロイドを蓄積するAPPトランスジェニックマウスとの交配により、BBBにおけるLRP1の欠損が脳内アミロイドの蓄積に与える影響について解析している。
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