平成19年度の研究目的は、シャブタイ派運動(17世紀後半から18世紀)のユダヤ教史における意義を明らかにすることであり、とりわけこの運動において中世に発展したカバラーとメシアにズムがいかに変容したかを思想史研究の観点から探究することであった。具体的には、ツファット盛期(16世紀)に興隆したルーリアのカバラーがシャブタイ派運動に及ぼした影響を再評価することと、シャブタイ派運動思想家、アブラハム・カルドーゾのプロパガンダを研究することであった。いずれの点についても、現在論文としてもとめているところであるが、以下にイスラエルでの資料収集を通して得られた成果を述べておく。 前者に関しては、預言者あるいは聖人としてのイツハク・ルーリアのイメージが運動の精神的土壌になっていたことを証明することを目指した。こうした視点からの研究は一般的ではないものの、実際に彼の聖人伝や奇跡譚をまとめた一次資料や論文を入手することができ、またこのようなツファットのこうした精神的風潮がガザのナータンだけでなく、ハシディズムにまで影響していることが分かった。 後者に関しては、2007年の拙論『アブラハム、ミカエル、カルドーゾの神学とメシア論:シャブタイ派思想の多様性の一側面』以上に深く追求することはできなかったが、彼のサークルがシャブタイ派思想の担い手として極めて特異かつ重要でありながら、ほとんど研究が行われていないことが分かった。 以上が昨年度に掲げた目標に対する成果であるが、最も大きな収穫はより核心的な新しい視点を発見したことである。それはシャブタイ派運動の霊魂論とも呼べるべきものであり、今後は上述の成果も踏まえつつ、カバラー史に沿ってそれを研究していく予定である。
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