研究概要 |
アゲハ幼虫の脱皮期皮膚を用いてcDNAライブラリーを作製し、20,000クローンについて両側から配列決定を行った。これらのEST情報を手動でクラスタリングし、データベースにまとめて整理した。この情報を以前構築していたシロオビアゲハ、カイコ幼虫の脱皮期皮膚のcDNAライブラリーの情報と比較解析した結果、アゲハの仲間では青色や黄色の色素に関わる遺伝子が特異的に高発現していることが明らかになった。さらにカイコのゲノム情報との比較から、これらの遺伝子群がアゲハの仲間で重複進化していることが推測された。また、3種間で比較した結果、クチクラ蛋白質にも非常に多様性が見られ、その発現パターンから紋様や突起物に関連していることが示唆された。 アゲハ幼虫の紋様領域ごとに脱皮期の0〜8時間にかけてRNAを抽出し、cDNAサブトラクション法を行い、それぞれの紋様ごとに200クローンずつ配列決定を行った。その結果、黒い領域ではyellow遺伝子などが、白い領域ではJH結合蛋白質遺伝子などが高発現していることが予想され、実際にin situ hybridizationの結果からも紋様に関わっていることが示唆された。さらに、これまでに解析したメラニン合成遺伝子に先立って黒色領域で発現する新規遺伝子も得られ、紋様形成の遺伝子ネットワークを理解する上で新たな知見が得られた。これらの遺伝子のうち数種はエクジソンによって発現が調節されていることが確認された。また、アゲハ幼虫の擬態紋様とホルモンとの関係を調べるため、体液中の幼若ホルモン濃度の測定を行い、幼若ホルモンの濃度依存的に紋様の切り替えが生じることを突き止め、その結果をScience誌に発表した。 さらに、カイコ幼虫には、さまざまな体色変異体が知られているが、色素合成遺伝子をゲノム上にマッピングする作業の過程で、yellow遺伝子とebony遺伝子が2つの体色変異体の近傍に位置することを発見し、また変異体ではORFに致命的な欠損があったことから、これらの遺伝子が変異体の原因遺伝子であることが考えられた。
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