地球温暖化からなる近年の気候変動や資源の枯渇問題などが、作物栽培へ影響することが懸念されている。そのような中で、植物の環境適応能力を高めた効果的な栽培や育種法が期待されている。本研究では、近い将来に資源の枯渇等が予測されており、また途上国での使用量の増加から肥料価格が高騰している栄養元素の「リン」に注目し、植物のリン酸環境に対する適応機構の解明に繋げることが目標である。具体的には、植物のリンの獲得や体内の移動が環境中のリン酸量に応じてどのように変化するのかを明らかにすることとした。 これまで破壊的手法が主流であったため詳細が不明であったリンの動態についてマメ科モデル植物であるミヤコグサを用いて新しい解析システムによる動態解析と分子生物学的手法によるリン輸送体解析を行ってきた。19年度のイメージングシステムによるリン動態解析、20年度のミヤコグサリン酸輸送体遺伝子の単離および機能解析の結果を受け、21年度は、植物体の部位別にリン酸輸送体遺伝子の発現量を調べその時の実際のリン酸移行速度および移行量をリアルタイムイメージングシステムにより調べた。その結果、リン酸欠乏時には、根、成熟葉、新葉はそれぞれ異なる輸送体遺伝子発現量変動を示すものの、どの組織への移行速度も上昇し、低い組織で約3倍、高い組織では約10倍であった。また、発現量が高く特徴的な輸送体遺伝子3つについて、発現抑制体を作製し、リン酸動態のイメージングを試みたところ、移行速度の変化はあまり見られず、6つのリン酸輸送体遺伝子の機能が相補し合っていることが考えられた。また、個々の遺伝子機能解析のみならず、イメージング解析と分子生物学的解析を組み合わせたことにより、輸送体遺伝子の機能を実際の基質輸送の視点から解析するという手法を植物生理学分野において新たに提示することができた。
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