トマト黄化えそウイルス(TSWV)のゲノム複製・mRNA転写機構の詳細は未解明な部分が多く、両反応に関与する植物側因子も殆ど同定されていない。前年度までに、TSWV感染植物体よりウイルスビリオンRNP(ゲノムRNAとN・Lタンパク質の複合体)を精製し、BYL(脱液胞化タバコ培養細胞抽出液)と混合したところ、ウイルスmRNA転写活性が検出されることを見いだした。今年度はBYL中に含まれる成分を分画し、mRNA転写活性を与える植物側因子の同定に向けて解析をおこなった。 具体的には、BYLを硫酸アンモニウム(硫安)による塩析によって分画し、それぞれの画分を限外濾過膜でバッファー交換した。その後、各画分をTSWVビリオンRNPに混合し、転写活性解析に供した。その結果、硫安の60%飽和条件でBYL中のほとんどのタンパク質が沈殿したが、転写活性を与える成分は60%飽和では沈殿せず、80%飽和で沈殿する画分に含まれることが明らかとなった。さらに興味深いことに、この画分は転写活性だけでなく、複製活性も促進させることが示唆された。両活性の促進効果が、単一の因子に由来するのか、別因子として分離可能であるのかは現時点では明らかでなく、今後さらに当該因子の分画を試みる予定である。 TSWVビリオンRNPを人為的に構築する計画については、RNP構成因子であるNタンパク質、Lタンパク質を試験管内合成させることには成功した。しかし現在のところ、これらの因子を試験管内合成したTSWVゲノムRNAと共に混合しても、複製・転写活性は検出されておらず、特にLタンパク質について量的・質的な問題がある可能性が高い。今後は、Lタンパク質のみについては、感染粒子からの回収を行うか、直接細胞内にmRNAを導入して合成を試みるなどの工夫をおこなう必要があると思われる。
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