極低温に冷却された原子の系ではトラップ形状や原子間の相互作用を幅広く調節できる。個数の異なる2種の内部状態にあるフェルミオン原子が引力相互作用する系で超流動を示す凝縮体が実現された。トラップ形状と原子集団の形状の差の有無や、凝縮が起きる偏極度(原子数の差を和で割ったもの)の上限については、トラップの形状の異なる複数のグループでの実験の間に差異がみられ、その原因をめぐって議論が続いてきた。 昨年度、1次元系での基底状態の性質を、多体系で相互作用を数値的に厳密に扱える密度行列繰り込み群を用いて研究し、偏極度によらず運動量の和が0でないペアが凝縮することを示したのに引き続き、本年度は、実験で使われる3次元的な葉巻型トラップにおける有限温度での個数インバランスフェルミオン系のシミュレーションを行い、トラップのアスペクト比と原子集団の形状や凝縮が起きる偏極度の範囲の対応関係を解明することを目指した。平均場近似に基づくBogoliubov-de Gennes(BdG)方程式を採用した。インバランス系では、紫外発散の正規化に既存の方法が使えない。エネルギーカットオフより上の状態の効果を取り込める手法をもとに、カットオフに関して収束の速い方法を開発した。トラップされた系では、非凝縮成分にも存在する粒子間の相互作用(Hartree項)を考慮する必要がある。Hartree項を取り入れたBdG方程式を、数万粒子までの系について数値的に解いた。実験は異種粒子間のs波散乱長が発散するFeshbach共鳴点で行われてきたが、平均場近似で扱える、s波散乱長の絶対値が平均粒子間隔と同程度までの範囲で、実験結果が定性的に再現されるかどうかを調べた。 実験と同様に、凝縮体はトラップ中央部に生成し、全粒子数の偏極度が小さいときには、両成分の密度差はトラップ中央部でほぼ0となる。トラップのアスペクト比が大きいほど、密度差のアスペクト比とのずれが大きくなり、この傾向は実験と定性的に一致することがわかった。
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