研究概要 |
がん細胞の増殖シグナル伝達系の代表的なものとして、PI3K/PDK1/Akt経路が知られている。EGFやIGF-1などの増殖因子の刺激によって活性化したAktは基質のリン酸化を介して、抗アポトーシス・増殖促進作用をもたらす。 私はこれまでの研究から、新規PDK1結合タンパク質XがPDK1/Akt経路の活性化因子であることを明らかにした。今回、siRNAを用いてXを発現抑制すると、PDK1依存的なAktのリン酸化は抑制されたが、他のPDK1の基質であるS6K,SGK,PKC,PRK2のリン酸化レベルの変化は見られなかった。また、Xと各々のタンパク質(Akt,S6K,SGK)を共発現させ免疫沈降・ウエスタンブロットを行った結果、XはAktとは結合するがS6KやSGKとは結合しないことが分かった。Xを過剰発現あるいは発現抑制させた際のPDK1とAktの結合を検討したところ、X過剰発現時には両者の結合は増大し、X発現抑制時にはEGF刺激時に見られる両者の結合が抑制された。以上の結果から、XはPDK1の基質の中でもAktと選択的に結合し、両者の足場タンパク質として機能していることが明らかとなった。 また私はこれまで、XがEGF刺激によるPDK1依存的なAktのリン酸化を選択的に亢進する一方で、IGF-1やPDGF刺激によるAktのリン酸化には寄与しないことを明らかにしてきた。今回、EGF刺激時にのみEGF受容体とXが結合することを見出した。またこの時、XとAkt間の結合もEGF刺激依存的に起こることが明らかとなった。XとPDK1間の結合は見られなかったことから、PDK1結合タンパク質であるXは刺激に関わらずPDK1と結合しており、EGF刺激依存的にEGF受容体およびAktと複合体を形成することでPDK1によるAktのリン酸化を促していることが強く示唆された。
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