がん細胞の増殖シグナル伝達系の代表的なものとして、PI3K/PDK1/Akt経路が知られている。本研究ではすでにPDK1結合タンパク質としてXを同定している。Xは機能に基づく名前がつけられておらず、これをAki1[Akt kinase(PDK1)-interacting protein1]と命名した。そして、Aki1がEGFシグナル選択的にPI3K/PDK1/Akt経路で足場タンパク質として働き、細胞の生存・増殖を促すことを明らかにしてきた。これまではRNAi実験を中心に解析を行ってきたが、Aki1の過剰発現の効果を知るためにEGF刺激下でAki1を発現させた。すると、発現させたAki1の量が増えるにつれてPDK1によるAktのリン酸化レベルは上昇した後、減少に転じた。このような2相性の挙動は足場タンパク質を過剰発現させた時に見られる現象として知られており、Aki1が足場タンパク質として機能することが証明された。これまでPI3K/PDK1/Akt経路において明らかにされてこなかった足場タンパク質を同定した点は非常に意義深いと考えている。 次なる課題としてAki1の個体内での生理的な意義を明らかにするべく、ヒトAki1トランスジェニックマウスの作製を開始した。ジェノタイピングの結果、5匹のマウスにAki1遺伝子の挿入が認められた。今後germline transmissionの有無を確認し、フェノタイプ解析を進める予定である。上述したように細胞レベルでの解析ではAki1を強く発現させると、Aktのリン酸化が抑制された。この事実を考慮すると、Aki1が個体内でもPDK1/Akt経路の足場タンパク質として機能しているならば、ヒトAki1トランスジェニックマウスのフェノタイプはAktのノックアウトマウスに近いものになると予想され、今後の解析に期待したい。
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