歌人兼好周辺の、神官の歌壇活動に関する考察として、前年の和歌文学会第五十三回大会での口頭発表に更なる加筆修正を施した上で、中世掛幅縁起絵研究会にて「『伊勢新名所絵歌合』の新名所設定と成立意図-法楽としての歌合-」の題で口頭発表を行った。この内容をもとに、学会誌『和歌文学研究』に発表した。特に、昨年度に引き続き行ったフィールドワークの成果を踏まえ、本歌合における新名所設定と歌合開催の意図を、歴史的背景を視野に入れながら論じたものである。そして、この発表を含むこれまでの研究成果をまとめた著書『歌人兼好とその周辺』を、笠間書院より出版した。『兼好自撰家集』の「哀傷歌」を探ると、兼好と交流の深かった人物が見えてくるが、その中でも、これまでほとんど注目されていなかった大中臣定忠とその周辺に焦点をあてていき、大中臣家出身の歌人として積極的に和歌活動を行った定忠と、その周辺の人々との交流を掘り下げながら、兼好が歌集に収めた意図を考察し、歌人兼好とその周辺のネットワークの一端を明らかにしたものである。 また、兼好周辺の、僧侶の歌壇活動に関する研究成果として、明月記研究会にて「『新三井和歌集』の成立と性格」の口頭発表を行った。『新三井和歌集』は、中世を中心とする三井寺の歌僧やその周辺のネットワークを知る上で、大変貴重な資料である。口頭発表では、『新三井和歌集』の成立時期を、官位記載や詞書から具体的に考証した上で、歌集に収められる人物を掘り下げてその関係を系図化し、更に収める詞書や和歌に着目しながら、本歌集の性格の解明を試みた。 その他、韓国日本学聯合会第6回国際学術大会において「歌人としての兼好法師」の口頭発表を行い、『兼好自撰家集』編纂のあり方から、歌人兼好の生涯と人々との交流について述べる機会を得た。
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