研究概要 |
今年度は,特に知覚と我々の信念,知識との関係に関する問題群を扱う研究を進めた。この研究の重要性は,我々の信念と世界との関係をめぐる古来からの哲学的問題に照らしても明らかであるが,特に本研究の意図からしても,是非とも必要な研究であった。問題は,ウィトゲンシュタインの私的言語論以来一般的となった観念論的傾向を持つ哲学への批判,すなわち「正しいと思うことと正しいということとは区別されなければならない」という批判にある。知覚論を通じて世界を論じる現象学的なスタイルは,まさにこうした批判に答えるのでなければならない。というのも,知覚というのは,一見するかぎり主観的な体験にほかならないように思われるからである。こうした課題に対して,私は,現象学的知覚概念が単なる主観的な経験概念とは異なるということを確認し,しかも当該知覚概念が我々と世界とをまさに取り結ぶものとして理解されるべきであるということを強調し,学会にて発表した。この点で,現象学的知覚概念といわゆる「直接的実在論」的な知覚概念とは類似しているが,もちろん現象学にとって構成的な方法を踏まえて言えば,それらは完全に重なるわけではない。このズレを際立たせながら,現象学的知覚概念のポイントを強調することがさらに望まれる。
|