本年度の研究実施計画に基づき、ハナカマキリ特有のピンク色(赤色+白色)を基調とした体色を形成する色素分子の生化学的同定を行った。ハナカマキリ終齢幼虫の脚を材料として用い、色素抽出条件の検討を行った結果、赤色色素に関しては0.5%塩酸/メタノール溶液によって効率よく抽出できることが判明した。HPLCおよび質量分析計を用いた解析の結果、この赤色色素はオモクローム系色素の1つであるキサントマチンと推測された。また、赤と黒を基調とした体色をもち、カメムシ幼虫に擬態しているとされる1齢幼虫においても、赤色色素としてキサントマチンが利用されていることが分かった。以上の結果から、ハナカマキリは2種類の異なる擬態の形成において、同一の赤色色素分子を用いていることが明らかになった。一方、白色の形成に関しては、0.5Nアンモニア水による抽出とHPLCおよび質量分析により、ロイコプテリン、イソキサントプテリン、尿酸等の白色物質が検出され、これらの分子が体色に関与している可能性が示された。 また、本年度計画の「カマキリにおけるRNAi法の確立」に関して、体色形成に関与するオモクローム合成系の遺伝子は非常に良い指標になると考えた。そこで、ハナカマキリおよび近縁種カマキリから、オモクローム合成系の酵素をコードするvermilionおよびcinnabar遺伝子をクローニングした。現在、これらに対するdsRNAを調整し、カマキリの卵あるいは幼虫にインジェクションを行い、体色形成に与える影響を検証中である。
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